ITに関連する仕事に就きたいと考える時、まず理解しなければならないのは、IT業界でいま進んでいる大きな変化です。IT業界の構造的な変化は、IT技術の変革にも関連しており、その変化の流れの中でIT技術者の位置づけや役割もまた大きな変化を迫られています。
従来、企業や公的組織が必要と考えた情報システムはその企画・開発を委託されたコンピュータメーカーや大手SIerやコンサルが中心になってハードウェアやソフトウェアを選定し、必要なアプリケーションソフトウェアを開発する形態がとられてきました。
その際、情報システムの開発のプロセスは、企画、設計、開発、テスト、設置、検収、稼働開始、運用・保守という一連のプロセスに沿って進められました。また情報システムを構成するハードウェアやソフトウェアは企業が所有し、ハードやソフトウェアの運用・保守も所有者たる企業が行うのが通常のかたちでした。
ところが、近年では、クラウドコンピューティングの進歩により、情報システムを個々の企業で所有、保守する技術的・経済的合理性が弱まり、企業システムのクラウドへの移行が進んでいます。
この結果、システムのハード、ソフトの販売、アプリケーションの開発・保守及びシステムの保守・運用による収入に依存してきたコンピュータメーカーなどの力は相対的に弱まり、クラウド及びクラウド上のサービスを提供するGAFAに代表されるプラットフォーマーが技術やビジネスのトレンドを主導するようになってきました。
またメールなどの共通的な業務機能はもちろん、財務や営業支援などの企業の代表的な機能についてもクラウド上のサービスとして利用されるようになり、企業は自らのビジネスの差別化につながるようなコアの機能の開発に注力するようになっています。
つまり企業システムにおいてはどの企業も使う同じような機能は、クラウド上のサービスで、競争に勝つための差別化につながる機能(コア・コンピテンシー)は自ら開発するという傾向が強まってきています。
また業務システムの開発も、企画から保守・運用までのプロセスを厳密に管理するウォーターフォールモデルではなく、システムの更新を短期のサイクルで繰り返し、ダイナミックに開発を進めるアジャイル開発が注目されるようになってきています。
さらにスマホやタブレットという新しい端末によるモバイルコンピューティングの比重が高まっています。これにより、音楽を初め、映像、ゲームなどの新しい流通チャネルが登場しました。モバイルコンピューティングは企業システムの構築やシステム開発にも新しい可能性を提供しています。
このような変革の中でIT業界の個々の仕事に要求される内容も変化しつつあります。特にユーザ企業がコンピュータメーカや大手SIerを頂点とした多重下請けを前提とした階層型の開発システムにその開発をほぼ丸投げするという日本独特の開発スタイルはまうます維持することが難しくなっていきます。
どの企業でも似たような企業の基本的な業務システムについてはクラウド上で提供されるサービスでカバーされるようになり、全体としての企業システム開発はその分、量的にも減少していくものと予想されます。
一方、企業はますます厳しくなる競争を生き抜くために、自己の競争力強化につながる独自の機能を実現するためのシステム開発を進めていく必要があります。現在、先進的な企業で進められている自社開発強化の動きはその現れです。
このようなシステムの開発に、従来の多重下請構造を前提とした開発スタイルを適用していくことは納期の面でもコストの面でも合理的ではありません。比較的少数の優秀な開発チームにより柔軟で素早い開発スタイル(アジャイル開発)が必要となります。
クラウド上のサービスを提供する側でも、魅力的なサービスを実現するために、優れた開発能力を維持することが必須となります。
このような傾向を総合すると、全体としてはソフトウェア技術者の数は大きな不足となり、当面、たとえば向こう10年と20年の単位で、不足していくことが予想されます。
また技術者以外の営業やマーケティングのお仕事もこの変革により変化していきます。簡単に言えば、「もの」から「サービス」の販売、マーケティングへの移行となるでしょう。手法としてはネットをどのように営業やマーケティングに活用していくかがキーになります。
このような変化の時期に、どのように仕事や職場を選択していくかはとても難しい問題です。そもそも変化の先を性格に見通すことは専門家でも困難です。個人差もあり、誰にでもあてはまる正解もありません。
まず現在の変化の方向を手に入る情報や信頼できるひとの意見などにより自分なりに理解することから始めましょう。次に自分のやりたいことや適正、妥協できない条件など自分にとって何が大切なのかを考えていきます。
いまいる会社でやっている自分の仕事が業界のエコシステムの中でどのような位置づけなのか、自分のやっている仕事のレベルはどこまで通用するレベルなのかなど、自分の仕事を客観的に評価することも必要でしょう。
IT技術は今後あらゆる企業や社会を支える基本技術になるので、これを利用可能にするための仕事もどんどん増えていきます。ただその内容はIT技術の普及や進歩に応じてどんどん変わっていくことが予想されます。
その意味で、技術で言えばはやりの技術を表面的に学ぶのではなくその本質を理解できる基礎的な知識や経験を積んでいくことが変化に対するリスクヘッジになると思います。技術以外の仕事についても同様のことがいえるでしょう。
本稿、及び次に続ける記事が皆さんがこれからのお仕事を考える上で少しでもお役に立てばうれしく思います。