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調査データから見るIT技術者の収入

職業を考える上でもちろんやりがいや社会的意義なども大事ですが、なにはともあれ、給料に皆さんの関心はあると思います。本稿では調査データを参考にIT技術者の給料と仕事の環境の実態を考えていきます。

近年、世界的にIT技術者の不足が叫ばれ、日本では海外との報酬の差が問題になってきています。このような状況を受け、IT技術者の収入について、さまざまな調査が行われるようになりました。ここでは代表的な公的調査である「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年、経済産業省) の結果を参照していきます。

同調査は、経産省によるIT関連企業368社を対象とする企業調査および IPAによるIT関連企業勤務者5000名を対象とする個人調査の結果を分析したものです。

※「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年、経済産業省) については経済産業省のページが見当たらないため、国会図書館アーカイブWARPにあるURLを参照してください。

給与水準に加え、給与・人事評価制度、採用、残業・勉強時間、兼業などについても調査を行っています。以下、その概要をご紹介します。

給与水準

まず、給与水準の実態から見ていきましょう。

下図は職種別の年収平均とスキル標準レベルの平均を示したものです。左側の薄い青は情報サービス・ソフトウェア関連、右側の紫はインターネット関連企業の職種を表している。

同調査では管理系のプロジェクトマネージャー(以下プロマネと呼ぶ)やプロデューサーの年収より高度SEやITアーキテクトなどの専門職の年収のほうが少ないと指摘しています。管理職系はプロジェクトの損益に責任を持つ立場で、年齢も相対的に高いと思われるので一般的な専門職より給料が多いのは当然とも考えられます。

職業別の年収平均とスキル標準レベル
職種別の年収とスキル標準レベル 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年)
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またコンサルタントは全職種の中で最高になっています。全体的に見て、いわゆる業界単価に対応する給料になっているように見えます。またSE・プログラマーが一括になっていますが、SEとプログラマーの差も知りたいところです。

次に企業の給与制度が年功型か能力成果型で収入がどう違ってくるかを見てみます。

年功の影響度×年齢別の年収水準の推移
年功の影響度と年齢別年収水準の推移 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年)
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上図は自社の給与制度が年功序列の影響を受けているかどうかの回答結果に応じて、企業の給与制度を「能力・成果重視型」、「年功型」、両者の「中間型」に分け、その年収水準毎の年収を比較したものです。55歳時点の年収の差を見ると、「年功型」より「能力・成果重視型」の企業の方が最高水準と最低水準の差が大きい、つまり給与格差が大きいことが読み取れます。生涯年収についても同様の推計をしていますが、やはり「能力・成果重視型」の企業のほうが格差が大きいと推定しています。

国際的な比較はどうでしょうか。本報告書では、前年に行われた「IT人材に関する各国比較調査」の結果を参考として引用しています。

日米のIT人材の年代別の年収分布
日米のIT人材の年代別の年収分布 出典:経済産業省「IT人材に関する各国比較調査」(2016年) (クリックで画像拡大)

上図は日米のIT人材の年代別年収の分布を表示したものですが、米国では年代による差が少なく、どの年代の中でも格差が大きいのに対し、日本ではほぼ年功序列に従い、年代の中の格差も少ないのがわかります。また年収平均値においても、日本は米国に大きな差をつけられています。

同調査ではアジア諸国についても調査しています。(下図)

各国IT人材年収分布と全産業平均年収との比較
日米のIT人材の年代別の年収分布 出典:経済産業省「IT人材に関する各国比較調査」(2016年) (クリックで画像拡大)

日本・韓国のIT人材の平均年収は全産業平均の2倍程度ですが、その他の国では、4倍から10倍程度と他産業に比べて抜きんでて高くなっています。IT関連の仕事への就業意欲もインド、インドネシアを筆頭に高く、技術者が希望してIT関連業務に就業したことがわかります。

日韓中と東アジアの国で相対的に就業意欲が低いのが傾向としてあります。東アジアではIT関連の仕事のイメージがそれほどよくないということでしょうか? 特に日本で「絶対に就きたいと思っていた」がわずか7%と韓国に比べても3分の1なのは残念なことです。過去に3K業界として新卒学生に避けられたことが影響しているのかも知れません。業界としては魅力を高めるためにもっとがんばらないといけないということでしょう。

給与・人事評価制度

次に給与・人事評価制度についての調査結果を見ていきます。

給与水準に与える影響の大きさ
給与水準に与える影響の大きさ 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大

上図では、給与額に与える影響要因を企業側に聞いた結果です。一番、影響があるのはITのスキル、次にマネジメントを含むコミュニケーション能力、業務成果が続いて、これら3つの要因を企業が重視していることがわかります。残念ながら先端分野のスキルや企画力にはあまり期待していないようです。

年齢別の最高年収達成要因
年齢別の最高年収達成要因 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

上のグラフは企業に営業力、スキルなど5つの要因を挙げ、そのうち、どの要因が最高年収を与える要因になったかを年代別に聞いた結果を表したものです。若いときはスキルによる実績、年をとるにつれて、マネジメント能力による実績に比重が移る傾向がはっきりわかります。

45歳位までは、企画力や営業力の実績の比率も増えています。

業種別のITスキル評価基準
業種別のITスキル評価基準 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

では、企業はどのような基準でIT技術者のスキルを判断しているのでしょうか?上図は、スキル診断ツール、保有資格、専門の学歴のうち、どの基準を重視しているかを企業に聞いた結果を業種別に示したものです。業種によりばらつきがありますが全体として保有資格を重視する傾向にあります。

専門的な学歴については、あまり重視していないようです。これは別途聞いている企業の専門教育に関する意見の中で、専門教育が実践的でなく、業務遂行能力につながっていないという批判が多い事に関連しているように見えます。

自社給与・人事評価の印象
自社給与・人事評価の印象 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

IT技術者の側が給与や評価に関してどのように考えているかを示したのが上図です。企業側が労働時間より成果を評価していると感じ、また年功より成果を重視すべきだという意見が多いようです。また、給与に差をつけないのは良くないと考えている傾向があります。

現在の給与に対する満足度
現在の給与に対する満足度 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

現在の給与に技術者がどの程度満足しているかを示したのが上のグラフです。左の図は業種別の満足度で、システムコンサルが高く、派遣が低いほかは、ほぼ同じような傾向を示しています。

右の図は個人が自社の制度をどの程度成果型かと見ている程度を区分し、区分毎の満足度の傾向を見ています。成果型と判断しているほど、給与に対する満足度が上がっていくようです。別の調査結果では給与水準が低い技術者でもも成果型の給与制度を支持する傾向があるので、単に給与水準そのものではなく、制度の考え方も変えることが大切といえます。

年功型給与と課題
年功型給与と課題 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

上図は給与制度への年功制の影響の程度により、企業を区分し、課題に対する傾向を見たものです。給与制度への年功制の影響が強い会社では、社員の士気やスキルアップの姿勢を課題と感じる傾向が強く、年功制の影響がない会社では給与原因の離職や長時間労働が少ないと認識していることがわかります。

給与制度と転職
給与制度と転職 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

それではIT技術者は転職をどう考えているでしょうか?上図の左側のグラフは業種別の転職傾向をみたもので、システムコンサルと技術者派遣で転職意向が強い傾向があります。右側のグラフはは個人の自社給与制度の認識と転職意向の関係を示したもので、自社の制度が年功的であると考える技術者の転職意向が他に比べて高いことが読み取れます。

次に給与を成果主義にすることによる社員間の連携への影響を個人に聞いた結果が下図です。

成果評価の社員連携へ影響
成果評価の社員連携へ影響 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

左側のグラフは世代別に比較したものですが、世代間の差はあまりありません。右側のグラフは回答者個人が自社の給与制度を年功的ととらえている程度別に集計したものです。年功型と認識しているグループでは、社員間の連携への影響があると懸念する傾向が強くなっています。一方、既に成果型の給与制度を経験しているグループは影響が少ないと考える傾向があります。

採用

本調査では企業の採用動向も分析しています。以下、しばらくは採用動向に関する調査結果です。報告書では最初に前年調査結果から下図のようなIT人材の需給見通しを示しています。

IT人材の需給見通し
IT人材の需給見通し 出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(2016年) (クリックで画像拡大)

これはIT人材の需要と供給を産業人口のマクロモデルにより推計したもので、2015年で既に約17万人の不足、これが年毎に伸び、2030年には約59万人の不足になると予測しています。ただでさえ情報化が遅れている状況で、このような人材不足が発生することは日本の産業競争力の観点からも深刻な事態といえます。

下の2つの図は新卒採用状況を表したものです。上の図は業種別の状況で、全体としては約半数の企業が採用人数を確保できておらず、質においても約4割が不満足であるとしています。下の図は、企業の従業員規模別の結果です。大手になるほど有利である傾向がはっきり読み取れます。

このほか、新卒社員の初任給に能力や経験により差をつけるかという点も聞いているが、考慮していると回答した企業は13.3%と意外と少ない結果が出ています。

業種別 新卒採用の状況
業種別 新卒採用の状況 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)
企業規模別新卒採用状況
企業規模別新卒採用状況 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

中途採用についても同様の調査が行われています。下の2つの図の内、上の図は中途採用の人数や人材の質に聞いた結果を業種別にまとめたもので、システムコンサルの業種が比較的良好な結果を示しています。これは収入が高いこと、コンサルへのステップアップを目指す技術者が多いこと、そもそもコンサルタントには転職志向が強いことなどが要因としてあげられるかと思います。

下の図は同様の結果を従業規模別に集計したもので、従業員1000人以上の大企業が良い結果を得ているのが読み取れます。

業種別中途採用の状況
業種別中途採用の状況 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)
企業規模別中途採用状況
企業規模別中途採用状況 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

下図はIT技術者に転職時に重視するポイントについて聞いた結果です。左の図にある通り、1番目は給与・報酬、2番目は仕事のやりがい・面白さが強く、次にワークバランス、やりたいことができるかが続きます。

転職時に重視するポイント
転職時に重視するポイント 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

左の図は新卒時に重視したポイントで、1番目が仕事の性質、次に社風、3番目に年収となっています。経験を積んだ結果、まずはお金、次に仕事のやりがいというのはプロとしての自信の表れともとれる結果かと思います。

残業時間と勉強時間

以下に残業時間、勉強時間についての調査結果をご紹介します。

下図の左側は年代別の残業時間で、働き盛りの30代、40代がやや多く、20代、30代が少なくなっています。1週間当たりの勉強時間は忙しい?30代が少ないのに対し、50代が一番多くなっているのが興味深いですね。余裕があるのか、あるいは新しい技術を学ばないと時代に遅れるというあせりなのでしょうか?

年代別残業時間と勉強時間
年代別残業時間と勉強時間 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

下図は残業・勉強時間を従業員規模別に集計した結果です。残業時間は個人事業主が一段低く、それ以外はほぼ従業員規模が大きくなるにつれ微増する傾向にあります。勉強時間は個人事業主が多く、その他はあまり違いがありません。個人事業主は時間的余裕が多いが、その分、勉強しているといえます。

従業員規模別産業時間と勉強時間
従業員規模別産業時間と勉強時間 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

ITスキル標準のレベルと残業・勉強時間の関係を示したのが下図です。レベルが高いほど残業時間が多く、勉強時間も多いという傾向が見られます。レベル1の初心者の勉強時間はレベル2よりも多くなっています。ITスキル標準については、本サイトの記事「ITスキル標準を知っていますか?」をご覧ください。

スキル標準レベル別残業時間と勉強時間
スキル標準レベル別残業時間と勉強時間 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

下図は年収と残業・勉強時間の関係です。全体を見ると年収に応じて残業時間も勉強時間も多くなっていることがわかります。稼いでいる人はそれなりに残業もしているし、勉強もしている?

スキル標準レベル別残業時間と勉強時間
スキル標準レベル別残業時間と勉強時間 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

職種別の残業時間・勉強時間を下図に示します。プロジェクトマネージャ、プロデューサー、コンサルタントが残業が多いといえます。このうち、コンサルタントの勉強時間は職種別でトップですが、プロマネ、プロデューサーは中程度となっています。残業の多さがよく問題となるSE・プログラマーは意外と残業が少ないのですね。

職種別残業時間と勉強時間
職種別残業時間と勉強時間 出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

兼業・副業

最後に兼業に対する企業の考え方を見ていきましょう。下図は企業が兼業・副業を認めているかを、業種別(左図)、従業員規模別(右図)に示したものです。全体では約15%の企業が兼業を認めています。業種別ではシステムコンサルとWeb関連がそれぞれ30%、39%と割合が多くなっています。

兼業・副業の認可の状況
兼業・副業の認可の状況出典:経済産業省「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(2017年) (クリックで画像拡大)

兼業を認めない理由としては、「自社業務に差し支える」が最も多く、次いで「適切な就業管理ができない」となっています。

まとめ

以上、「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」を元にIT技術者の報酬と関連する事項を見てきました。人事制度について個人、企業とも成果主義をめざす方向ははっきりとしていますが、一部の例外を除いて、実際の給与は日本企業全体の年功的な人事制度の枠の制限の中にとどまる傾向があります。この結果、日本のIT技術者の報酬は国際的にも依然低い水準にとどまっています。

ただし、当社の採用活動を通じても、ここ2-3年で急速にIT技術者、特に若手の給料が上昇していることを実感します。これは継続する深刻なIT技術者採用難により、IT関連企業が危機感を高めていることを反映しているように思われます。また最近のソフト内製化の傾向によりユーザ企業がIT技術者の採用を進めていることも採用難に拍車をかけ、報酬アップの圧力になっているのでしょう。

本記事が皆さんがキャリアを考える上での参考になればうれしく思います。

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